青木旅山「おくのほそ道」第二章
緑風の旅 其の五、村上~高田
■6月8日(歩42km)
6月8日の歩行距離は5万歩超えの42kmになった。

mountain
村上のホテルを6時に出発。
腰痛は治ったが足のマメと裂傷の痛みがひどくなり、テープでしっかり固めて登山靴に戻した。
連泊なのでリュックではなくウエストポーチのみにした。
30kmぐらい歩いたら列車で戻るつもりだった。
しかし時間が合わず、更に二駅先の新発田まで歩くことになった。
国道では車が多く危険との背中合わせになった。

bashokita
昨日から暑くて半袖にしたら、腕が真っ赤になり痛い。
睡魔に襲われ度々膝が折れ転びそうになる。

公園、橋の木陰を見つけ倒れ込む様にして眠った。
この頃から熱中症になりかけていたのか?
もしかしてこのままあの世行きかな?
旅で倒れるなら本望!!とも思った。

bashokita
午前中は睡魔と暑さに苦しんだが、午後は風もあり楽になった。
昼に立ち寄ったパン屋の奥さんが大変親切で優しい方だった。熱中症を心配され、歩くのは危険だと何度も言われた。
6年前猛暑時に歩いたスペイン巡礼では1日最低4㍑の水を飲むよう言われ、時には懐中電灯を手にまだ暗い4時に出発、毎日必ず午後2時迄に巡礼宿に着いた事を思い出した。

bashokita
新発田ではまず蔵春閣へ向かった。
新発田が生んだ大実業家、大蔵喜八郎は現在の大成建設、サッポロビール、帝国ホテルなどを設立。
政財界の大物や海外からの賓客をもてなす迎賓館がこの蔵春閣だ。

bashokita
大化4年(648)創建と伝えられる諏訪神社。
地元では「おすわさま」と呼ばれ親しまれている。

bashokita
帰りは鉄道を使った。
駅は新発田城をモチーフとしたデザイン。
駅というより美術館のような趣がある。

◆行程:村上→新発田→村上
◆訪問地:蔵春閣、諏訪神社
◆経費:列車970円/飲物719円/昼食716円/夕食1,300円/宅配1,430円/宿6,900円//計12,035円


■6月9日(歩37km)
色々御心配をおかけして申し訳ありませんでした。
新潟に向かう途中、日焼け止めの薬を買い、早速使いました。
足まめ、擦り傷に関してはこれまでの経験からワセリンは毎日欠かさずたっぷり塗っています。
多分履き替えた運動靴が足にフィットしていなかったのが原因と思っています。
多少痛みはありますが歩くのに支障はありませんので大丈夫です。
歩行距離も1415kmになり一昨年2ヶ月かけて歩いた四国遍路〜高野山の1400kmを超えてきました。

kasnebashi
福島県を源流とし日本海へ注ぐこの川は荒海川、阿賀川、そして新潟県では阿賀野川と名を変える一級河川。

nasujinnja
新発田からまっすぐ歩いて来たが、この橋を渡ると新潟市に入る。

kasnebashi
夕方4時頃到着、ホテルにチェックインして市内を巡った。
護國神社は日本海を望むときわの森に鎮座し、長い参道の奥にある。
松林の中には遊歩道ががあり、北原白秋の砂山歌碑、新潟生れの坂口安吾碑があり嬉しかった。

kasnebashi
芭蕉は船で上陸、ここ新潟で一泊した際に詠まれた句だが心に残りました。

yoichi
19時頃、大河信濃川にかかる美しい万代橋をゆっくり歩いてホテルに戻りました。

◆行程:村上→(鉄道)→新発田→新潟市→新潟泊
◆訪問地:護国神社、浮見塚
◆経費:列車590円/薬2,178円/昼食830円/飲物892円/夕食930円/バス代260円/宿6,745円//計12,425円


■6月10日(歩19km)
芭蕉に取り憑かれない様に御心配頂いたので、今日は半日ゆっくりします。
芭蕉は鼠の関を越えてから市振まで16日間、2つの句以外はほとんど何も書いていない。
持病(腹痛と痔?)があり体調が悪かったのか、念願の象潟が終わり気持ちが薄れたのか、この地域には有力な支援者、門人がいなかったのか。
村上、新発田、新潟の観光案内所を通じて学芸員に尋ねたがよくわからないままだった。

nanohana
曾良日記によれば新潟を後にし弥彦の門前町で宿泊している。
しかし新潟から弥彦までの距離が長く、暑くなる予報だったので、今日は12km先の新潟大学辺りまで歩く事にした。

nanohana
高校の同級生で鬼籍に入ったが新潟大学に進んだ友、10年新潟大学で教鞭をとった友などを思いながら広い構内を散歩した。

◆行程:新潟市内散策、新潟泊
◆訪問地:新潟大学
◆経費:薬547円/飲物330円/昼食1,386円/夕食750円/列車330円/洗濯430円/宿6,745円//計10,518円


■6月11日(歩29km)
nanohana
新潟駅から列車で前日歩いた所まで戻り、歩き始めた。
歩き始めて暫く行くと、越後平野に大きな空が拡がった。
綺麗な雲の空、一直線に続く農道、線路の写真など撮りながら快調に歩いた。
途中、機械での玉ねぎ収穫方法に興味を持ちじっと見ていたら、農協職員が横に来て色々説明してくれた。
歩いて旅をしていると色んな人に出会う。

nanohana
やがて歩行路の無い国道に出た。
前方から次々来るトラックに細心の注意を払いながら、更にアスファルトの照り返しで暑さが一層厳しくなった。
明日は最高気温32度、弥彦神社〜西生寺〜出雲崎まで36km。
この区間は鉄道そして今はバスも無し。
己の限界を意識しながら対策を考える。
どうやったら歩き通せるのか?

nanohana
睡魔に度々襲われながらも4時頃ホテルにチェックインした。
越後一の宮の弥彦神社参拝後、温泉で湯ったり体を休めた。

nanohana
疲れと暑さ?で高熱が出たが、ひと晩で平熱に戻った。
快適な良いホテルだったのでゆっくり休むことができた。
ただし咳と喉の痛みはこの後も続いた。

◆行程:新潟→弥彦泊
◆訪問地:弥彦神社
◆経費:飲物633円/昼食930円/夕食1,050円/宿10,050円//計12,663円


■6月12日(歩33km)
今日の難行苦行?も人の親切に支えられた。

nanohana
平野部から一転、山岳地帯へ入る。

nanohana
弥彦峠を越え海岸ロードから再び山の中に戻るように3km登り西生寺へ。
ホテルからこの間10km自販機が見つからず、暑さで喉はカラカラ。
暑くて冷タオルを使っているが気休めであまり役に立たない。
車で通りかかった家族連れから声をかけられ自販機が無いか訊ねたら、自分のお茶を差し出してくれた。

nanohana
西生寺は日本で一番古い弘智法印即身仏(ミイラ)があり、芭蕉も訪ね良寛も住んだ由緒ある寺。

nanohana
境内には芭蕉句碑がある。
新緑と木漏れ日、寄り添うように咲くギボウシも美しい。

nanohana
西生寺の展望台から日本海を望む。
新潟県景勝百選に数えられる大展望だ。

momomatsuri
西生寺にいたお姉さんに食事場所を訊ねたら、ありがたいことに車で案内して頂いた。
昼食後、日本海沿いに南へ歩を進める。
大河津分水路は日本一の水量を誇る信濃川の流れをコントロールし水害防止や農業のために作られた分水路だ。
2022年には通水100年を迎えている。

momomatsuri
山王寺の麓付近から20km歩いて良寛の里美術館に行ったら臨時休業。
さらに9kmとぼとぼ歩いて、出雲崎の農家民宿に着いた。

momomatsuri
芭蕉も出雲崎に宿を取り、ここであの名句の霊感を得た。

◆今日の句:
「荒海や佐渡によこたふ天河」※詠んだのは後日

◆行程:弥彦温泉→弥彦峠→寺泊→出雲崎宿
◆訪問地:西生寺、芭蕉参詣の碑、良寛の里美術館
◆経費:昼食1,550円/飲物480円/列車190円/宿7,250円//計9,470円


■6月13日(歩21km)
11日の発熱後、咳と喉の痛みが残っているが大したことはない。
膝とふくらはぎの痛みが襲うこともあるが、これも想定内、ひと晩寝れば大丈夫。
つらい時、何故か「若者たち」を歌っている。
♪君のゆく道は果てしなく遠い~なのになぜ歯を食いしばり~君はゆくのか~そんなにしてまで

nanohana
出雲崎は再訪。新潟県の景勝No.1の「良寛と夕日の丘公園」、3.6kmに及ぶ妻入の街並、良寛堂そして芭蕉園などをまわった。

nanohana
上越新幹線の開通を記念して、1982年に「新潟景勝100選」が決まった。
県民の投票で選ばれた第一位、「良寛記念館から見る日本海と佐渡」は良寛の母の故郷である佐渡、弥彦山、眼下に良寛堂、出雲崎漁港、そして旧北国街道の妻入りの街並みを望む。

nanohana
今回の旅では三度~松山温泉、村上、出雲崎~で山頭火に出会ったが、友に出会えた様で嬉しかった。
最近は旅を愛した漂白の歌人(牧水、山頭火、良寛)の足跡を辿る旅をしてきたが、おくのほそ道は私が最後に目指した旅だ。

momomatsuri
今夜の宿は部屋から海が一望、日本海に沈む夕日が綺麗だった。
幸せな旅の1日が終わった。

◆行程:出雲崎観光→温泉→柏崎泊
◆訪問地:良寛と夕日の丘公園、良寛堂、芭蕉園
◆経費:昼食690円/飲物1,480円/温泉850円/薬2,200円/宿7,600円//計12,820円


■6月14日(歩18km)
色々御心配をかけましたがここまではほぼ予定通り。
今日は柿崎、明日は高田に宿泊します。
夏風邪なのか?
咳と喉の痛みが酷くなり寝不足で少しつらいが、熱は無いので歩くのに支障無し。

nanohana
柏崎郊外の海辺の宿から柏崎駅まで15㌔。
薬剤師のいるドラッグストアまで歩いていると、偶々人出が多く屋台がずらっと並んでいた。
200年以上の歴史あるエンマ市だそうで屋台が2km以上続いている。

nanohana
かつては閻魔堂の前で馬市が開かれていたが、形を変え今のエンマ市になった。
夏を告げる市で、6月14日〜16日まで開かれる。
全国から500軒の露天商が集結、20万人が集まる一大イベント。私は初めだったのでどこまでも続く屋台にびっくりしたが、まずは閻魔堂にお参りした。

momomatsuri
早めにホテルに戻り宿の親子と歓談した。
夕方うっすらと佐渡ヶ島が見えた。
夕焼けをバックに写真を撮ったが己の年老いた顔にがっかり。(泣く)

◆行程:柏崎観光、柏崎泊
◆訪問地:柏崎閻魔堂、エンマ市 ◆経費:薬5,395円/昼食800円/飲物180円/バス代470円/宅配1,430円/宿7,500円//計15,775円


■6月15日(歩27km)
今日も海を見ながら楽しんで歩きたい。
おくのほそ道を歩いていて一番がっかりしているのは、誰ひとり仲間がいないこと。
もう慣れたが、歩く時はいつもひとり。
バイク、自転車で旅をする人が笑顔で通り過ぎてゆく。

nanohana
朝一番のバスで柏崎駅まで行く予定で朝食も6時にお願いしていたが、土曜日でバスは来ず、次は2時間後。
宿に戻ったら奥さんが車で送ってくれるとの事。嬉しかった。
歩き始めから約15km自販機もトイレも無く店はクローズ。事前にコンビニで飲み物を購入しておいてよかった。先日の反省が実った。

nanohana
途中の長くて美しい橋は歩道が無くて怖かった。

nanohana
が、景色は良かった。

momomatsuri
日本海と線路を見下ろしながら歩く。
上輪と米山の間の陸橋、胞姫(よなひめ)橋。

momomatsuri
やっと見つけた店がカニ長福丸の屋台。
越前とは違いここは3月〜12月まで蟹漁が出来るとのこと。
不器用な私を見かねた隣の女性が手伝ってくれた。
女店主も一緒に私の身を取りながら、私の旅の話で盛り上がった。私は食べるだけ。(笑)
新潟の人は話好きで心優しい人が多い。

momomatsuri
今日も最高気温32度。
ホテル到着1時間前から睡魔が襲い、何回も日陰を探して休んだ。

momomatsuri
宿は料理屋兼民宿。
美味しかったが夏バテ、喉の痛みで半分以上残してしまった。

◆行程:柏崎→上輪→米山→柿崎泊
◆経費:昼食1,650円/飲物378円/買物13,580円/宿8,000円//計23,608円

■6月16日(歩28km)
高田に着いた。
一昨年、千曲川源流から小諸〜真田〜川中島〜野尻湖〜高田〜直江津〜柏崎〜出雲崎〜新潟港に至る19日間の旅を計画。
しかし旅の途中から目の異常があり突然の台風襲来もあり、旅を11日目にして断念。
帰宅後、網膜剥離と診断され間違えば失明の怖れありと言われ緊急手術を受けた。
高田への道は今回おくのほそ道を歩く事でカバーされた、かな。
仲間たちから「若者たち」は良い歌だが、もう若くないんだから歯を食いしばったら折れると言われた(笑)。
明日は老体を労り高田で完全休養。明日以降の予定は未定、体調次第とします。

nanohana
昨日とはうって変わって、こんな道路が長かった。

nanohana
謙信公大橋を渡る。
春日山に近いこの辺りには、上杉謙信公の名を頂いた地名がよく見られる。
空模様は朝からずっとこんな感じ。

nanohana
橋を渡ると高田まではあと少し。関川沿いを歩く。

nanohana
午後から激しい雨になった。
夕方、傘をさして高田城の三重櫓に出かけた。

nanohana
ツツジや紫陽花が美しかった。

nanohana
大正三年創業の讃岐屋で、出来立ての寒天が主役のあんみつを味わった。

◆行程:柿崎→春日山→高田泊
◆訪問地:高田城
◆経費:飲物228円/昼食781円/夕食1,430円/宿7,800円//計10,239円


■6月17日(完全休養日)
昨夜は咳がひどく眠れなかった。また、早朝から耳垂れがひどかった。
まずは内科で薬を貰いたくて病院に行ったが、医師の話があまり聞こえず耳医者を紹介された。
耳鼻科で鼓膜が破れている事が分かった。急性中耳炎だった。
事情を説明したら、帰れと一喝された(内科医からも言われたが)。
不本意ながら帰ることを決めた。正直なところ、もうこれ以上無理かなとも思った。
そんなわけで、少し早くなった第二章の旅をここ高田で終わらせて頂きます。
歩いている時はいつもひとりでしたが、皆様方の温かい励ましに支えられ歩く勇気を頂きました。
又知らない町を歩いている時に出会った方々の優しさは格別で、最高の思い出になりました。
今後は猛暑の夏、体調問題の不安を払拭した上で出発日を決めたいと思います。
皆さまに心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。

■6月18日(帰郷)
自宅に戻りました。
中耳炎はさておき、夏の暑さの中で歩き通す事はかなり難しい事も分かりました。
遅れついでに出発は10月半ばを予定したいと思っています。
7月いっぱいで体調を整え(今は耳が聞こえない)、8月からトレーニングを再開します。

主治医から言われた通り、今回は確かに生命を削る旅になったかもしれません。
でも私は己の意志を貫き自分の夢を選んだ。一点の後悔もありません。
旅の途中で倒れても悔い無し!!は常々話し我が妻、子供達も理解、了解しています。
いつか人生は終わる、自分の大好きな旅で倒れるならある意味本望とも思っています。
この歳で2000km以上のおくのほそ道を歩く冒険、挑戦が多くの人に感動と勇気を与え、また次につながればこれ程嬉しい事はありません。
今まで数限りない旅をしていっぱい楽しんできましたが、これ程出会いの多い旅は初めてです。
自分の旅日記を読み返し、出会ったひとりひとりの顔が鮮明に浮かび上がってきます。
芭蕉と同じ日数の142日目に大垣に着く夢は絶たれましたが、出会った沢山の方々への感謝を胸に、再度大垣を目指して歩いて参ります。
ありがとうございました。

◆行程:高田→富山→名古屋
◆経費:宅配1,430円/交通費8,840円/昼食1,500円/飲物120円//計11,890円